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2008年04月20日

ウルビーノのヴィーナス展&記念講演会

ウルビーノのヴィーナス展&記念講演会

ようやく観ることができた「ウルビーノのヴィーナス展」についてです。
ウルビーノのヴィーナス

今回は珍しくKさんと一緒に鑑賞、さらに先日のシンポジウムの際に先にカタログを購入したこともあり、実物をみて大きさが想像とまったく違ったり……といつもと違う感覚で観ることができました。

以下は、カタログの写真から。

『ポリフィロの夢』
1499年に出版された『ポリフィロの夢』。
小説『フランチェスコの暗号』(新潮文庫)のネタ本でもあります。


ハルピュイアの注ぎ口のある水差し

ハルピュイアの注ぎ口のある水差し。
ハルピュイア(harpy)とは、ギリシャ神話に登場する女面鳥身の伝説の生物で、画面でいうと注ぎ口の左右にみえる横顔が2人のハルピュイア。
注ぐ口の正面には2本のへピのようなモノがみえますが、これは実は脚。脚のすきまからこの脚の持ち主の顔がみえます。そう、この方ものすごいエビぞり(ブリッジ)してて、苦しそう(笑)。
上の写真の中央にある図が「雌牛に変身させられたイオとアルゴス、メルクリウス」で、下の中央の図は「瀕死のアドニスのもとに駆けつけるヴィーナス」。


神話主題を表したキャビネット

神話主題を表したキャビネット。
彩色されているのではなく、なんと貴石のモザイクで細工されたもの。
中央が「アドニスの死」の図柄で拡大図はこちら。
神話主題を表したキャビネット 中央「アドニスの死」の

岩はわかるとして、イノシシや犬がいい具合に石の模様がいかされてます。
日本の蒔絵を思い出してしまいます。

ドイダルサスのアフロディテ

ドイダルサスのアフロディテ
紀元前3世紀のドイダルサスという彫刻家の原作に基づいて制作された、ローマ時代の模刻。全体も美しいですが、特に頭部(顔、髪)の美しさといったら……!


さて、今回の展示の目玉《ウルビーノのヴィーナス》ですが、人だかりかと思いきや、あまり人は集まっていず、結構近くまで寄ってみる事が出来て良かったです。洗浄・修復の効果もあるのかと思いますが、これぞヴェネツィア派という色彩の美しさも堪能できました。

ミュージアムショップでは、《ウルビーノのヴィーナス》と同じ赤い生地模様のキタムラのバッグ(バラのハンドバッグ)が売っていて思わず笑ってしまいました。



次に、記念講演会についてです。

三浦篤(東京大学教授)は、以下の本で昨年サントリー学芸賞を受賞されていますが、マネを中心に19世紀フランス美術がご専門とのことで、今回はマネの《オランピア》との関連で講演されました。

近代芸術家の表象―マネ、ファンタン=ラトゥールと1860年代のフランス絵画近代芸術家の表象―マネ、ファンタン=ラトゥールと1860年代のフランス絵画
三浦 篤

by G-Tools



下記は、配布された資料とメモを中心に抜粋したものです。


「《オランピア》から《ウルビーノのヴィーナス》へ―近代絵画と伝統」


マネ《オランピア》

マネ《オランピア》。1863年に制作、モデルはヴィクトリーヌ・ムーラン。
1865年のサロンに出品され、スキャンダルを巻き起こす。「高級娼婦だ、裸婦が死体のようだ、看板のようだ、下絵に過ぎない」等。
非常に類似しているにも関わらず、《ウルビーノのヴィーナス》との関連に言及したのは2例のみで、その2例も1人の発言による間接的な言い方にすぎなかった。(※《オランピア》の革新性に圧倒されて言及されなかった?)



19世紀における《ウルビーノのヴィーナス》のイメージ
・テーヌ『イタリア紀行』(1865年)では、貴族の愛人、高級娼婦を描いたとして紹介。
・ラルース『百科事典』(1876年)には、「ヴィーナス」の小項目としてメディチ家の誰かあるいはウルビーノ公の愛人を描いたティツィアーノの傑作として紹介。

マネとティツィーアノの関係
・マネの先生であるクチュールは、ヴェネツィア派、ティツィアーノを推奨していた
・マネはティツィアーノの作品を模写している
 《ウルビーノのヴィーナス》1853年/《白い兎のいる聖母》1854年/《ジュビターとアンティオペ》1856年
・1865年にマネがサロンに《オランピア》を出品した時に、《兵士に侮辱されるイエス》と2点くみあわせて出品しているが、マネの研究者Th. Reffによればティツィアーノの前例に並ぼうとしたのではないか、と推察される。(当時の美術全集シャルル・ブランでは、「ティツィアーノはカール5世に対し、宗教画とヴィーナスをペアにして送った」というピエトロ・アレティーノの逸話を紹介している)


《オランピア》と横たわる裸婦の伝統
・ゴヤ、ベラスケス
 ゴヤの《裸体のマハ》(1800年?)は私的な目的のための注文画であるが、レプリカを通してコピーは知られていたので、挑発的な眼差しは影響を受けた可能性もある。また《着衣のマハ》に影響をうけたマネの作品もある。
 ベラスケスの《鏡の前のヴィーナス》をゴヤはみていた?
・アングルやドラクロワ エキゾチスム、オリエンタリズムの文脈(黒人の召使いなど)

サロンのおける娼婦像
・1863年のサロンでは、カバネルやボードリー、アモリー=デュヴァルがヴィーナスを出品
ヴィーナスが精緻なリアリスムをもって通俗的に描かれるようになる

マネの《オランピア》
・横たわるヌードという古典的な伝統を引き継ぎながら、理想化されない現実の裸体を個性的な特徴とともに表した。
・マネはサロンに反乱していた絵空事的なヌードにアンチテーゼをつきつける意味で出品した?
・マネの友人ボードレールは、1865年「現代生活の画家」で「古典的絵画を参照してもつまらないものしかできない」と述べる
・形式を採用しておきながら内実を壊す作品
・二極の危うい均衡の上にあるクリティカルな絵画(平面的/立体的)

エピローグ
マネの《オランピア》から150年たち、今度はこの作品にインスピレーションをうけた作品が生まれている
・セザンヌの《モデルヌ・オランピア
・ゴーガン、ピカソの水浴の女
・マチスの色と形で画面を構成したヌード



振り返ってみると、今回の講演はマネの《オランピア》が「どう解釈できるか?」ではなく、「どのように受容されてきたか」をたどるという、ニューヒストリ−のお手本のような講演だったと言えるかと思います。
サロンのカタログや批評・カリカチュアなどの資料を引用して当時の社会的な背景を再構築し、「横たわる裸婦」という連続した視覚イメージに焦点をあて、その上で多義的な解釈を許容する・・・以前紹介したピーター・バークの本を思い出さずにはいられません。


そうそう、今回のヴィーナス展の記念講演会の内容は、「講演集」として出版される予定とおっしゃっていました。
私は今回の講演会しか参加できませんでしたが、以下の講演会がどのようにまとめられるのか楽しみですね♪



《記念講演会》
3月4日(土)14:00‐15:30
クリスティーナ・アチディーニ(フィレンツェ美術館特別監督局長官)
「フィレンツェ美術館特別監督局 伝統と未来のはざまの美術館」

3月15日(土)14:00‐15:30
芳賀京子(東北大学准教授)
「古代美術における横たわる裸婦」

4月12日(土)14:00‐15:30
浦一章(東京大学准教授)
「イタリア文学におけるヴィーナスとその周辺人物たち」

4月19日(土)14:00‐15:30
三浦篤(東京大学教授)
「《オランピア》から《ウルビーノのヴィーナス》へ―近代絵画と伝統」

5月10日(土)14:00‐15:30
渡辺晋輔(国立西洋美術館研究員)
「ルネサンス美術に表わされたヴィーナス―《ウルビーノのヴィーナス》を中心として―」



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1. 近代絵画の誕生一八六三年  [ 本・雑誌 通販 ]   2008年05月15日 10:25
近代絵画の誕生一八六三年著者:ガエタン・ピコン/鈴木祥史出版社:人文書院サイズ:単行本ページ数:248p

この記事へのコメント

4. Posted by うっちゃん   2008年05月25日 10:21
上段と中央の段は、視覚的にもシンメトリーになっていますが、下段になぜこの場面が描かれたのか’、またなぜ’この順になったのかわからないのですが、もしわかったら、教えてくださいね〜!

3. Posted by ゆうき   2008年05月24日 23:30
早速のお返事ありがとうございます!

愛とエロスのテーマでまとめられているんですね。
『アドニスの死』によってヴィーナスの存在を感じさせるだけでなく、
テーマという視点からもヴィーナス展にはぴったりのキャビネットだったということですね!
それを知って、また感激してしまいました。

丁寧なご説明ありがとうございます。
また、それぞれの神話について調べてみたいと思います。

本当にありがとうございました。
2. Posted by うっちゃん   2008年05月24日 22:29
ゆうきさん、こんばんは!

カタログによると、主題は下記のようです。

上段左:ワシにさらわれるガニュメデス
上段右:ペガサスとベレロフォン
中段左:牡牛の背に乗るエウロペ
中段右:デイアネイラとケンタウロス
下段左:ピュラモスとティスベ
下段中央:アタランテとピッポメネス
下段右:泉に立つナルキッソス

「神話に基づく8つの場面は、主題と構成上の上でシンメトリーに則り、愛とエロスのテーマでまとめられている」とのこと。
なんとも贅沢で、ロマンティックなキャビネットですよね〜〜
1. Posted by ゆうき   2008年05月24日 19:09
はじめまして。
私はあまり美術館には行かないのですが、
ウルビーノのヴィーナス展に足を運び、とても感激いたしました。
中でも「神話主題を表したキャビネット」は個人的に素敵な細工だなと見惚れてしまいました。
そこでお聞きしたいのですが、この作品の8つの絵はそれぞれ何の神話を基にしたものかお分かりになりますでしょうか?
『アドニスの死』と『ナルキッソス』の神話を基にしたものがあるのは分かったのですが、
パンフレットを購入しなかったこともあり、どうしても分かりません。
もしお分かりになるようでしたら、教えていただけると嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
フェデリーコ・ダ・モンテフェルトロの小書斎TV「ダビンチ巨大壁画を今夜発見」